堀威夫


1932年神奈川県出身。明治大学商学部卒業。数々の大物タレントを世に出している株式会社ホリプロの創業者。2002年に東証1部上場を果たし、2003年には名誉大英勲章CBEを授与されるなど芸能界の一般企業化を成し遂げた先駆者でもある。現在は御子息に社長職を譲り、ファウンダー最高顧問として活躍している。



――明治大学で打ち込んでいたものは何ですか。
音楽をやっていました。高校時代にバンドをやっていて、大学に入って辞めるつもりだったのですが、
偶然クラスメイトの中に音楽をやっていた人がいてその人に誘われました。
自分はリズムギターをやっていたのですが、大学2年生ぐらいからそのバンドが売れるようになりました。
きちんと試験などは受けて落第せずに卒業はしましたけどね。


――なぜ芸能事務所を創業しようと思ったのですか。
先ほど言った音楽活動の延長線上だからです。
当時はミュージシャンっていう言葉がなく、バンドマンと言っていました。
バンドマンはどこかうさんくさくて堅気でない商売と感じ、
親から学費を出してもらってずっとそれをやるのは申し訳ないと思っていたので、
いつか辞めようと思っていました。
また、音楽を表現する立場からいずれは裏方に回ろうと思っていたのもあります。



――仕事関係で困難なことがあったときどのようにして乗り越えましたか。
負け戦をひきずらない。それがプロの大前提だと思っています。
成功から遠のいていくっていうのかな、負け戦をひきずる人はどうしても失敗しますよね。
そもそも僕の場合、そう思うのは生まれ育った性格もあるかもしれませんね。
負けるということはあって当たり前のことでいつも勝つということはありえないのだから、
ひきずるかひきずらないかが重要なのだと思っています。
最初からそれを意識していたわけではないのですが、40歳から50歳にかけて振り返ってみたとき、
ひきずらないことがこの厳しい業界で生き残った理由なのかなと思いました。


――指導者として心掛けていることはありますか。
自分を磨くことです。
自分が逆の立場になって面と向かって説教されてもなにも自分にプラスになることがない。
僕はあまり口でいうタイプではなく後ろ姿から学ばせるので、
後光がさしていると言われるように自分を磨いています。
あとは、運を掴むことです。
これは何も科学的根拠はないのですが、僕は運というものは全ての人に神様が平等に与えていると
思っています。
なぜ運のいい人と悪い人が生まれるのだろうかということを僕は考えてみたときに、
問題はなんとなく自分に運が向いてきているなってことを肌で感じとれるか、
とれないかだと気づきました。
だから、ぼやっとしている人が一番だめなのです。
要するに、風が自分に吹いてきているのにぼやっとしてそれを1回パスすると、
その人は運の巡り合い方の順番が倍になり、また次にぼやっとしていると2乗、3乗になっていく。
そうすると運の悪い人がうまれるのです。
小さい風でも感じて、それを自分のものにしていく人は同じインターバルで運がくると僕は思っています。
運を掴むためには果報は寝て待てですが、寝ていて口を開けていてもだめで、
勝利の女神というのはたぶんお通夜みたいな顔をしている人には微笑まない。
だからいい顔を作ろうという結論に僕は達しました。
いい顔というのは色男になれって意味ではないですよ。
要するに顔を自分でメンテナンスできていればいいのです。
なので、うちの会社の姿見には「いい顔作ろう」と書いてあります。
仕事をしている以上嫌なことはたくさんある。
でも、ひきずらないように朝、鏡をみて昨日のいやな残像みたいなものがあるかないかチェックして
顔を洗って忘れるのです。そして、ゼロにして会社に行く。
そして、もう一回チェックするために僕は会社の鏡を姿見に変えたのです。



――ホリプロには多才な方が多くいらっしゃいますが、人を見極めるポイントはありますか。
僕の場合は三つ原則があって、歯、目、声です。
まず、歯はもちろんビジュアル自体で歯並びがいい方が悪いよりはいいということもありますが、
それよりも歯がきれいな人は咀嚼力がすごく、そのため健康なのです。これが一番大事なこと。
それから次は目。何か事を成そうとしている人は目がキラキラして、
イワシの腐ったような目をしていません。
次は声。これはべつにいい声、悪い声とかを言っているのではなく、下を向いてぼそぼそ言うのではなく、
大きい声を出せるかが重要になっていきます。
声が大きいのを小さくすることは簡単ですが、その逆は非常に聞きにくいです。
つまり、スピーカーと同じです。
出力の小さいスピーカーでボリュームを大きくかけると汚い音になりますが、
出力が十分あるスピーカーでボリュームを小さくしてもきれいなままです。
最も決定的なことは、大きな声を出せる人はだいたい根明が多くて、根暗は少ない。
これは大事な要素ですね。以上が三大原則です。
ホリプロタレントスカウトキャラバンを始めてから、
僕は審査をしながらそれを原則にして選ぶようになりました。


――最後になりますが、これから社会に出る明大生にメッセージをお願いします。
明大生らしさ、自分らしさを追求してほしいです。
僕はいつも思うのですが、リバティタワーに行って見ていると、
昔は明大生とほかの学校からなにか用があって来ている人となんとなく見分けがつきましたが、
今は全然見分けがつかないです。
それが悪いということではないけれど、明大生らしさがなくなってしまったかなと感じました。
それは他所の学校も同じなのですが、社会にでてからそれでは通用しないと思います。
現在の気取った言い方でアイデンティティという言葉がありますが、僕は「らしさ」とか、「ならでは」、
つまり明治大学「らしさ」、明治大学「ならでは」みたいなもの、
またそれぞれ個人の「らしさ」「ならでは」を追求できないといい人生を送れないと思います。
自分が死ぬときに実りのある人生だったなと思えるように生きるには「らしさ」が必要で、
明大生にはそれらを追求してもらいたいです。