川上憲伸


1975年徳島県出身。明治大学商学部卒業。大学在学中は硬式野球部エースとして東京六大学野球の全勝優勝に貢献した。その後中日ドラゴンズに入団し、新人王、沢村賞など数々のタイトルを獲得。2009年にはメジャーに挑戦し、日米を股に掛けて活躍する大投手となった。現在も中日ドラゴンズの投手として活躍している。



――明治大学で特に印象に残っていることはありますか?
まず、田舎が徳島なので東京に出てきたとき、大学が御茶ノ水ということもあり、
周りがビルだらけなのにびっくりしました。
徳島の汽車は線路が一本なので、行きつくところが決まっている。
でも、東京の場合は、電車とか地下鉄が無数にあるので、目的地に向かっているのかわからなくなる。
なので、最初は先輩と一緒に通っていました。野球の練習で疲れ果てている上に、
行き先もよく分からない満員電車に揺られるわけですから、かなり苦痛でした。
ただ、それ以上にもっと大変だったのは身の回りのことを自分でやらなきゃいけないことです。
泥だらけでなかなか綺麗にならないユニフォームを毎日洗うのは予想以上につらいことでした。
さらに先輩のユニフォームも一緒に洗って畳まなきゃいけないし、
何時までに乾燥させなきゃいけないなどのルールもありました。
他にも細かい決まり事が多くて、その上練習はきつくて、つらかったですね。
長い野球人生いろいろありましたけど、やはりこの大学野球を始めた頃は特に克明に印象に残っています。



――そのような厳しい大学生活を、どうやって乗り越えたのですか。
母への感謝の気持ちと負けん気がバネになりました。練習をしていても、どうしても母の顔が浮かんでくる。
決して裕福な家ではないのに、母が頑張って働いてくれたので、こうして野球ができているんだと思うと、
頑張らないわけにはいかないんですよね。
それに加えて、大きかったのは甲子園で戦った子たちに負けたくないという気持ちです。
同じ野球部員の中にも、甲子園で負けた相手がいて、
この人には絶対負けないぞという意地がすごくパワーになりました。
その思いが、自分を野球人として最大限育ててくれたのだと思います。
それから、少し軌道に乗ってくると、だんだん人間は欲が出てくるもので、
あの人は1年生からエースをやっているから負けたくない、
自分も早くエースになりたいと思うようになりました。
あとは、他校で1年生の頃からすごく注目されている選手がいて、ホームランを打てばすぐに騒がれる。
同じ全日本チームにいても、自分より注目されていて、
それに比べて自分には陽が当たらないなあと思っていました。
そんなことないよ、と周囲の人たちは言ってくれたのですが、どうしても差を感じてしまっていて……。
だから、いつか絶対この人より注目されてやる、と闘争心みたいものが出てきて、
それが結果的にうまくいったのだと思います。


――明治大学に入って、得たものはなんですか。
明治大学で出会った友人や明治大学の絆ですね。
授業以外はほとんど野球をしていましたが、
3、4年生になるとだんだんと野球部員同士以外の情報も欲しくなってきたので、
そういうものを与えてくれた友達はとても貴重でしたね。
今でもたまに連絡をとったりしますし、本当に大切なかけがえのない存在です。
そのときから、だんだんと大学に入った意義を感じるようになりました。明治大学に入ってよかったなって。
明治大学に行かなかったら今の自分はなかったと思います。
卒業してからも、明治大学卒であるがゆえのつながりも多くて、たとえば遠征に行ったときでも、
「君は明治出身だったよね?僕も昔は、明治で野球をやっていたのだよ。」と話しかけてくださり、
その流れでごはんに連れていってくださったこともありました。
「ああ、ここにも明治の方がいるのだな。明治のつながりってすごいなあ。」と思わずには
いられませんでした。
もしかするとこれからは、逆に自分が話しかけていく立場になるのかもしれませんね。



――日本のプロ野球からアメリカのメジャーリーグへと舞台を移した理由を教えてください。
日本でのプロ野球生活にもう満足してしまったんです。
ある程度自分も活躍して、メジャーでやれる自信があったのもあります。
それと、アメリカで生活してみたかった、その中で野球をやりたかったからです。
日本に比べてアメリカは自由な国で時間や規則も細かく決められていない、
人もみんな愛想がよくてすごく親切にしてくれる。
だから、自分のペースで生活や調整ができると思いました。自主トレで行ったときにそれを感じたんです。
そのとき、どうしても「自分はこのまま日本でやっていていいのか。
1度きりの野球人生、悔いなくやらないでいいのか?」と思わずにはいられなかったのです。
だから、僕はメジャーへ行くことにしました。


――最後に、明大生へのメッセージをお願いします。
自分たちに誇りを持ってほしい。今の明大生は頭がいいですよね。
志望者数もどんどん増えていますし、
私たちがいた頃とは比べ物にならないくらい人気になっていると思います。
本当に今の明大生が明治をすごく盛り上げてくれていると思うので、感謝の気持ちでいっぱいです。
ぜひ、そうやって盛り立てている自分たちに誇りを持ってほしいです。
さらに東京六大学である明治は、特に伝統的なつながりが強いと思います。
ですから、みなさんが作ってくれた最近できた伝統と、
先輩方が古くから築き上げてくださった伝統の両方を大切にして、
誇りある楽しい学生生活を送ってください。