著名人インタビュー

「思わせぶり」で誤魔化さない芥川賞作家の歩み

羽田圭介さん


明治大学の卒業生・在校生には多くの著名な方々がいらっしゃいます。本記事は明治大学にゆかりのある羽田圭介さんにインタビューを行い、作成したものです。滅多に聞くことができない、学生時代のお話や、活躍されている業界のお話に注目です!

Q.1明治大学での思い出はありますか?

まず大学は高校と比べて、「自己責任の自由の場」っていう感じですかね。「大学に入ったらいきなり社会っぽくなるんだな」という印象を受けました。一方で、自分にとって心地のよい人間同士で集まれる空間でもありました。個人的には飲みの帰りに明大前駅の前とかでダラダラしている時間が思い出に残ってます。そのほかにもいま思えば、ボツ作は多かったものの、意外と真面目に小説を書いていたと思いますね。

Q.2明大祭に来たことはありますか?

大学1年生の時の明大祭2日目だったかな。明大生がステージ上で得意なことを披露するみたいな出し物に審査員として呼ばれました。僕の友達がこの出し物にパフォーマーとして出演していて、そのとき下火だったハイパーヨーヨーをやってました(笑)

Q.3なぜ作家になろうと思ったのでしょうか?

中学生のとき、埼玉の家から学校まで往復で毎日2時間弱は電車に乗っていて、その時間をつぶすために本を読んでたんですよ。ある日、当時住んでいた地域に貸出方法がデジタル式の新しい図書館ができたんです。それまでの僕は、図書館って貸出カードを使って本を借りるっていう不便なイメージだったし、図書館のほこりっぽいイメージ自体もあまり好きじゃなかったんですけど、この図書館を通じてクリーンなイメージになったんです。しかもレーザーディスクやDVD等、映画の視聴ルームもあって、しばらくそこに通っていたんです。ある日、この図書館にどんな本があるんだろうと思って順番に棚を見て回ったときに、小説家になるための方法みたいな本があったんです。それを読んで、「あー!そっか!小説って書く側にも回れるんだな」と思って、なんとなくそこから憧れはじめたって感じですね。

Q.4作家をしていて嬉しいとき・つらいときについて教えてください。

「自分が書きたいことを書けている」って思うとき、「書きたいことを書きたいように書けている」という実感を得られるときが、やりがいを感じられるときですね。そこにはもう自分以外の人間はまったく介在してないんですよね。褒められるとか文句言われるとかっていう次元じゃないんですよ。だから小説がうまく書けているときが嬉しいなって思いますね。つらいときといえば、まあ作品で悩んでいるときですかね。どこをどう直していいか分からないときが1番つらいですね。

Q.5仕事のなかで大切にしていることを教えてください。

僕は「思わせぶりな重厚さ」で誤魔化したくないと思っています。小説を思わせぶりに書くのって簡単だし、小説を読み慣れていない人ほど思わせぶりなものを「重厚」って勘違いしやすいんで、割と簡単に騙せちゃうんですよね。でもそういうのはやりたくないなって。全部開けっぴろげで身も蓋もなく書きつつ、ちゃんと何かが立ち上がっている感じにしたいですね。

Q.6これから新たに挑戦したいことはありますか?

いまは割と挑戦したいというか、色々なことに手を出しすぎちゃったので、絞っていきたいですね(笑)集中力って有限だと思うんですよ。そして、多くの集中力を割いたことでしか、人生は前進しないと思うんです。だから、新しいことをやるというより、余計なことをやらないようにしていきたいと感じています。

Q.7最後に明大生へのメッセージをお願いします。

やらなかったことに対する後悔はあるので、やらなかった後悔をしないためにも、色々やったほうがいいです。大学時代の4年間は特殊なので、バカみたいなことでも興味あることはやったほうがいいと思います。特に、年をとっていくら金を積んでもできないことは若いうちにやったほうがいいと思いますね。自分の友達がどんなにダメな人でも、優秀な人でも、みんな等しく若いっていう状況はそのときしかないわけですから。本人たちにとっては時間の価値が安く感じられるからこそできるどうでもいいバカなこと、他者とできる不毛っぽい時間というのが結構大事です。若いときにはやりたいことをたくさん思いつくと思うんですけど、そのなかでも他者がいないとできないことは思いついたときにやっとかなきゃ、もうその先にやる機会はないと思いますね。時間の貴重さに気づいてしまうとできなくなることは沢山ある。ぜひ今しかできないことをやってほしいです。

羽田圭介(はだけいすけ)2008年明治大学商学部商学科卒業1985年東京都生まれ。明治大学付属明治高等学校・中学校から明治大学に入学。2003年に「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞。さらに2015年には、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞。現在、文芸界をはじめとする数々の分野で活躍中。